『ここが知りたい!デジタル遺品 デジタルの遺品・資産を開く!託す!隠す! 古田雄介著 技術評論社』という本を読みました。
とても参考になったので、感想文を書きました。書評などというのはおこがましいのですが、ぜひお読みください。
人が亡くなると、その人の周辺にあるものは、遺品として扱われる。遺族が引き取り管理するものだが、近年、遺品の一部にデジタル遺品という概念が生まれているようだ。これまでの遺品は、原則的に質量をもつ物体であり、故人の愛用品や、本、手紙など、基本的には手に取れば概要を把握できるものであった。
ところが、近年の情報技術の発展にともなって、パソコン、スマホはもとより、様々なデジタルデバイスやオンラインサービスなど、個人にまつわる遺品の範囲が大きく変化しているようだ。
やっかいなことに、それらにはパスワードが設定され、強固なセキュリティーで守られている。全容を理解しているのは、本人のみであり、遺族にとっては非常に厄介な存在となっている。
実際のところ、機器に設定されたパスワードが壁になり、遺族がデータにたどりつけない例は多いようだ。
本書には、万が一の事態が起きた時に、デジタル遺品をどう扱うか、あるいは遺品となる前に、生前どのような備えをすべきかという情報がまとめられている。著者が実際に遺族から受けた相談などを元に、非常に具体的な対処法が記載されていて参考になる。
デジタル遺品とは、情報端末、情報端末内に保存されているデータ、インターネット上のデータなどと定義している。インターネット上のデータには、ネットサービスのアカウントや、SNSなどの投稿、ネット銀行など金融機関のデータ等あらゆるものが含まれる。
情報端末は、動産として普通の遺品と定義する場合もあるし、デジカメ、ブルーレイレコーダーといったデジタル機器も、デジタル遺品と考えるケースもあるという。新しい概念だけに、デジタル遺品と一言で言っても、定義とその線引きは未だ不確定な部分が多い。
遺族が、デジタル遺品を管理する手順は本書によると、
遺族が遺品を大切なものだと気づく
情報機器のロックを解除する
情報機器、ソフト・アプリの操作をマスターする
全容を把握する
といった手順をたどることになる。
同じ遺品ではあるものの、デジタルという枕詞が付いた途端に、一般の人々には扱いにくいものとなるらしい。デジタルの環境に慣れない人にとっては、どこから手をつけていいのか、途方に暮れるのもよく分かる。
一方、ハードウェアにも耐用年数があり、OS、ソフト・アプリのサポート期間にも限度がある。また、時間の経過とともに、ID、パスワードを探すことが難しくなる現実もある。
デジタル遺品に重要なデータが含まれる場合には、先送りにせず、早めに取り組むことを著者は勧めている。一方で、「どうにもならない時には、諦めて廃棄せずにひとまず保管しておく。時が解決方法を見つけてくれるまで待つ。」という、何とも言えない心強い助言もあって励まされる。
現実に、数年で技術の進歩する現代では、過去の難問が数年のうちに、いとも簡単に解決される事例があるという。
デジタル遺品の定義に続き、遺族としてデジタル遺品を管理する方法、デジタル遺品となることを前提にして、生前に個人の資産を整理する方法が解説されている。
前者については、スマホ、パソコンの機器に設定されたID、パスワードが不明な場合の調査方法から、具体的なデータの探し方、保管の仕方まで順を追って説明されている。
iPhone、iPad、Andoroidのスマホやタブレット、いわゆるガラケー、Windows、Mac、外部記憶装置、各種ストレージまで、実際の操作画面のキャプチャーなどもそろっていてよく理解できる。裏を返せば、対処した事例の豊富さを裏付けるもので、もしもの時には十分に信頼に足る資料だと感じる。
ここで再認識するのは、データの探索には他人の機器を操作するスキルが必要とされることだ。メールとウェブくらいしか使わないという人には難しい作業だ。それでも、つい若い人にまかせてと考えるが、スマホにしてもiOSとAndroidがあり、自分のスマホとは異なる機器である可能性もある。両方を使い慣れているケースというのは稀だろう。
さらに、パソコン離れが言われるスマホ世代である。若干ハードルの高い、Windows、Macを操作して必要なデータにたどり着くのは並大抵のことではないと想像する。それだけに、本書のような情報は必要不可欠である。
さらにネット上のサービスでは、2段階の認証設定が一般的になってきた。認証のためのパスコードがどこに届くのか、その機器もあわせて把握できるのか。本書では、深く触れられていなかったが、現実のハードルは高い。
後者の、生前に個人の資産を整理する方法については、自分の亡き後、遺族に託すものに加え、他人には隠しておきたいもの、他の人に伝わると嫌なものについての扱い方への助言もある。
思い当たるものをリストアップして現状を把握し、優先度を考えて取捨選択することがまず第一となる。IDとパスワードは、ネットを使えば使うほど増えていく。定期的な整理が必要であることをあらためて実感した。
さらに、見つけて欲しくない情報である。日々使う利便性を優先するのか、いざという時のために使いづらくても目につきにくく格納するのか。悩ましい問題だ。
興味深く読んだのは、各ネットサービスのユーザーが亡くなった際の対応だ。Facebookには追悼アカウントがあるというのは知っていたが、具体的な手順を本書で初めて知った。
また、ネットサービス各社の対応についての最新情報が網羅されていて参考になる。SNSやブログ、クラウドのストレージサービスくらいまでは認識していたが、電子書籍、クラウドソーシング、アフィリエイトまで触れられていて驚いた。デジタル遺品というのは、思いの外広範囲に及ぶようだ。
情報化社会は、技術の進歩のスピードが早く、将来については想像もつかない部分が多い。本書で解説しているデジタル遺品の定義も、5年、10年先には全く異なるものになっている可能性もあるとしている。
例として仮想通貨など、まさに現在進行形で私たちの生活の中に入ってくるものもある。そのような現実とどう向き合うべきかについての解説もある。
ただ、予想がつかないからといって何もしないのでは解決にはならない。現状を踏まえて、デジタル遺品について情報を整理することは有意義である。そのための整理シートが巻末に収められている。
私も8年前に家族を天国に送った。父はパソコンを趣味にしていたので、何台かのパソコンが遺された。廃棄するにあたって、ハードディスクの消去にはだいぶ労力を割いた記憶がある。
ただ、まだスマホが普及する前であったし、オンラインのネットサービスやSNSも今ほど一般的ではなかったので、それらについてデジタル遺品というものは、ほぼ存在しなかった。
かたや、自分はというと、スマホが3台、ケータイ1台、Windows、Macがともにあり、SNS、ネットサービスもひと通りアカウントがある。ネット銀行、ネット証券、クレジットカードなど、このブログの記事を書くために多くの口座を開設している。
ID、パスワードなども当然に多数あるので紙に書いて保存してある。現状については、自分なりに把握しているつもりだ。しかし、私に万が一のことがあった時に、家族にとってはどうだろう。
著者は、金融関係の情報を優先的に管理するように勧めているのだが、山のようにあるネット銀行の資料を前に家族は頭を抱えることだろう。
このブログに関しても、他のSNSアカウントについても同様だ。リスト化して、きちんとメッセージを遺せる状態にしないといけない。
本書は、デジタル遺品について知りたいという方はもちろん、今まさにデジタル遺品と向き合っている方、今後のために準備をしておきたい方まで、幅広く活用できる本だと思う。
今後、ますます高齢化が進み、誰もが避けて通れない課題である。遺品と向き合う機会も急速に増加する現代において、必読の書と言ってもいいかもしれない。
著者の主催する一般社団法人デジタル遺品研究会ルクシーは、「デジタル遺品を普通の遺品に」をモットーとしている。
環境の整備が進むことを願いつつ、私たちもしっかりと意識して取り組むべき課題だと感じた。
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